八坂洋平、それが僕の名前だ。
 僕の一族は代々、神道士を生業としてきた。
 時折、気のよどみから現世へと現れでる彼岸の者……妖怪とか、化け物とか言われる類を、元のあるべき世界へと送り返す力を持った集団、それが神道士。

 似たような力を持った陰陽師という集団もあるが、彼らとは似て非なるものだとか。

 神道士の里に産まれた子は、やがて一人前の神道士になるべく、試験を受けなきゃならない。

 なんでも、里を出て、妖怪を浄化する訓練を積み、なおかつ、生涯の伴侶を連れて帰還すること、
 それが神道士になるために必要な矢坂家のしきたりなのだそうだ。

 妖怪を元の世界に返すには、
 それに対する憎しみなどではなく、
 むしろ慈愛をもって当たらねばならないと言われている。
 その力を得るために必要な通過儀礼なのだと親父が言っていたような…

 おおかた、一族の血を絶えさせないための知恵、なんだろう。

 そんなわけで僕は、ある春の日、
 秋津学園高等部と言うところに転校する事になった。
 学年は2年生。
 ここの理事長は、うちの親父の旧友で、神道士でもある。
 学園のある場所は霊的に不安定なところで、古い時代からこれを押さえるために社があったという。

 若い神道士がその腕を磨くのに恰好の場所でもあったことから、やがて神道士の修行場となっていった。
 そのうち、彼らのための学問所もつくられ、これが秋津学園の前身となったというわけだ。
 現在は一般の学校ではあるけど、神道の授業もあるし、神道士の子弟も多く通っているみたいだ。

 僕はこの学校の敷地内にある、古い社で寝起きすることになった。
 すぐそばにはさくらの木が一本。
 この地を治める御神木だそうだ。

 これからここで学生生活を送りながら、 神道士としての修行をし、 その上、生涯の伴侶とやらまで見つけなきゃならない。

期間は一年…

 それまでに神道士としての資格を得なければならないというわけだ。
 僕にできるかどうか、それはわからない。
 でもやるだけはやってみようと思う…。

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